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Captain Johnno (TV) ジョノ船長

オーストラリア映画 (1988)

オーストラリアの建国200周年〔イギリスが1888年にニューサウスウェールズに刑務所植民地を設立した〕を祝って、オーストラリア児童TV基金が製作した6つのTV映画の1つ。他の5つは、西オーストラリアの僻地に4平方キロの土地を籤で当てた一家の話(The Gift)、古代ローマの船を発見したと思い込んだ3人組の話(Peter and Pompey)、都会の子供達が田舎の岩山で遭難する話(Devil's Hill)、少女とアボリジニの交流の話(Top Enders)、養子の娘が生みの母を捜す話(Princess Kate)。いずれも変わった趣向の内容だが、何といっても一番感動的な作品が『Captain Johnno(ジョノ船長)』。時代は『最高の夏』の5年前の1953年。『月光の曲/聾啞の3楽章』では、2017年の撮影時78歳だったジョナスの祖父は14歳だったことになる。『ジョノ船長』のジョノは、11歳という設定なので、2人はほぼ同じ時代に少年時代を送っていたことになる。ジョナスの父についての紹介では悲惨さは感じられなかったが、ジョノが住むアデレード近郊のひなびた漁村は、重度難聴者にとって住み易い場所ではなかった。映画は、ジョノを明るい少年に育てた姉が進級で、ジョノに理解のあった教師が転勤で村からいなくなった後、ジョノを襲う孤独と無理解の嵐を、赤裸々に、しかし、温かく描いている。

時代は、1953年。ジョノは、小さな漁村でパブを営む “ジョノに無理解” で厳しい一方の父と、“ジョノを愛し” 優しくサポートする母、それに “ジョノを守ってくれる” 天使のような姉に囲まれて育ってきた。ジョノは、海が大好きで、小さなボートを持っていて、海に潜って漁師の罠から蟹を救ってやったり、浜辺に打ち上げられ廃船で姉と海賊ごっこをしたりして楽しく暮らしている。「ジョノ船長」は、ジョノが海賊の船長役になって遊ぶことから、姉が付けた名だ。ジョノは重度の難聴なので、当時の原始的な補聴器では聴き取りが困難で、学校でもからかいの対象になるが、それを救ったのは、姉の存在と、中年の女性教師だった。ところが、クリスマスの休暇が終わり、1月末の新学期から、姉はアデレードの女子校に進学していなくなり、ジョノの学校の教師は、都会から来た新任の若い女性に変わる。遊び相手がいなくなったジョノは寂しく、新任の教師はジョノに対し鬼のように接する。ジョノは、鶏泥棒の疑いをかけられ、それを契機に父はジョノを聾唖学校に転校させようと決める。絶望したジョノは、家出して、小さなボートで、近くにある “海賊の島” に向かう。ジョノが突然消えたことを心配した母は、ジョノが嵐の海に出て行ったと確信し、渋る夫を動かし、警察に通報させる。しかし、捜索の指揮を取った担当者は、ジョノが風に逆らって、南にある島に向かったとは考えもしない。1人、ジョノと親しくなっていた “英語もまともに話せなくて、みんなからバカにされていた” イタリアからの移住者だけが、ジョノの残した地図を見て “海賊の島” へと救助に向かう…

ジョノを演じるのは、ダミアン・ウォルターズ(Damien Walters)。生年不詳。11歳という設定なので、同じ年齢であろう。彼は、本当の聾唖の少年で、ミサで おかしな声で歌って顰蹙(ひんしゅく)を買い、それに対し、怒って教会を出ていくシーンでは、彼の地声が聞ける〔補聴器のレベルが低く、きちんと話すことができないのは、同年代に少年期を過ごした『月光の曲/聾啞の3楽章』の祖父と似ている〕。そう思って観ると、ジョノに対する村人の偏見がますます腹立たしく思えてくる。ダミアンは、シカゴ国際映画祭で「best performance by a juvenile actor」を受賞。そのことには、心から拍手を贈りたい。ただ、ダミアンは、この映画1本に出演しただけで、俳優になったわけではない。

あらすじ

時代は1953年。海辺の村で育ったので泳ぎが得意なジョノが、桟橋の近くの海に潜っている。目的は地元の漁師が仕掛けた網籠で捕らえられた蟹を救い出すこと。蟹の代わりに中に石を入れてくるが(1枚目の写真、矢印は石)、これだと、“誰かがワザと逃がした” ことがバレてしまう。その頃、桟橋の上では1つか2つ年上の姉ジュリーが、イライラしながら待っている。ジョノが水面から顔を出し、水中マスクを外すと(2枚目の写真)、姉は、「ジョノ、来なさい、遅刻よ」と急かせる。ジョノは、姉の言葉が分からないので〔水中なので補聴器をつけていない〕、また海に潜り、蟹を2匹、石に置き替える。桟橋では、漁師が、「俺の網が変だぞ」と怒っている。その脇を、服を着たジョノと姉がこっそりと離れて行く。ジョノはイヤホンを取り出して耳にはめる。姉は、補聴器本体を手に持ち、「今度私たちが遅刻したら、グリーンウッド先生に殺されちゃう! さあ、行くわよ!」と大きな声で呼びかける〔1953年の段階では、補聴器は真空管からトランジスタへの移行期で、1952年に発売されたソノトーン1010型も両者の混成タイプだった。通常、難聴者は首から下げた補聴器で音声を捉え、増幅された音をイヤホンで聴いていた〕。ジョノに蟹捕りを妨害されたと気付いた漁師は、「取っ捕まえるてやる」と叫び(3枚目の写真、矢印はジョノの補聴器)、姉は、ジョノの手をひいて一目散に逃げる。
  
  
  

ジョノの父母は、村で唯一のパブを経営しているが、その2階が住居になっている。母と姉とジョノの3人が楽しそうにクリスマス・ツリーの飾りつけをしていると、そこにやってきた父が、ジョンの肩をつかみ、「よく聞け、ジョノ! お前には、やっていいことと悪いことも分からんのか? そのニヤニヤをやめろ! 他の人の持ち物に敬意を払え!」と怒鳴る(1枚目の写真)。それでも、ジョノがニコニコしているので、「笑うなと、言ったろ!」と怒鳴り、イスに投げ飛ばす。漁師が蟹の件で、父に苦情を言ったのだろう。「あんなことは許さん」。「けど、ボク、カニが好きだ」。「蟹が好きだろうが、蟹と結婚しようが構わん。だが、ウチの上得意さん達の持ち物に手を出すんじゃない! 分かったか!!」(2枚目の写真)。父は、姉に「補聴器のスイッチは入ってるのか?」と訊く。「ええ」。そこで、父は、もう一度、「分かったのか?!」と、ジョノの真正面から聴く。ジョノは頷いたようにも見える。「『イエス』と言ったんだろう」。姉は、「二度としないわ」と言うが、今度は姉が叱られる。「なぜ、止めなかった? 何をするか予想くらいしてろ!」。「そんなこと、無理よ」。「お前も、こいつと同じくらいバカなのか?」。「私も、ジョノもバカじゃないわ! いい加減にして!」。怒った姉は、その場から走り去る。ジョノがイスから立ち上がると、父は、「おい、どこに行く気だ?」と訊く。「ジュリー〔姉の名〕」。2人だけになると、父は妻に「俺たち、何て貧乏くじ引いたんだ〔got the short straw〕」と不平を漏らす。そこには、難聴者のジョノへの憐憫のかけらもない。
  
  

ジョノとジュリーは、近道を通って学校に急ぐ。もう始業のベルが鳴っている。2人が教室に入ると、教師はまだ来ておらず、女生徒の1人が、黒板一面に「メリー・クリスマス」と書き終えたところ。ジュリーは、「7年生、着席して」と教師の真似をする。「静かに。静かにと言ってるでしょ!」。ジョノは、木の棒を取ると、調子に乗って、「バツで いのこりよ!」と真似をする(1枚目の写真)。みんなが笑うと、その棒で机を叩き、「しずかに!」と叫ぶ〔ジョノの発音は、難聴者らしく、聴き取りにくい。うまく訳せないので、平仮名を多くしている〕。そこに、教師が入って来たので、2人は急いで最後列の席に座る。「何の騒ぎなの。静かになさい」。教師は、生徒の1人に、試験の答案を返却させる。教師は、「来年の新しい先生は、フィールディングという若い女の人よ。学校が始まる2週間前に来られるわ。都会から見えるから、最新の本をたくさん持参される」。ジョノだけは返却する答案がない。教師は、授業が終わってから追試をすると告げる。それを聞いたジュリーは、心配そうにジョノを見る(2枚目の写真)。
  
  

授業が終わり、子供たちが出て行く〔ジュリーを入れても12人だけ〕。ジュリーは弟のことが心配なので、帰らずに出口のところにいる。教室の中では、ジョノが教師に、「こたえ、わかりません」と言い、「分かってるハズよ」と言われる。そこに、ジュリーが入ってきて、「先生、すみません。“ハサミ船長”〔教室の水槽にいる蟹の愛称〕 を出してやってもいいでしょうか? 休暇中、ここには置いておけません」と提案する。教師は、いい考えだと賛成する。水槽に手を突っ込んだ姉を見て、ジョノは、「ハサミせんちょうは、ボクんのだ! ボクがやる」と反対する(1枚目の写真)。「でも、テストが終わってないでしょ。テストを済ませたら、“ハサミ船長” を自由にしていいわ」。「答え、わかった」。役目を果たしたジュリーは、「外で待ってるわ」と言って、教室から出て行く。教室の外では、悪ガキの2人が、「♪ジョノはバカ」と口ずさんでいる。どこにでも、こうした嫌な生徒はいる。2人は教室から出てきたジュリーと鉢合わせし(2枚目の写真)、慌てて逃げ出す。教室の中では、解答を終えたジョノが水槽から蟹を取り出し、教師に答案用紙を渡す(3枚目の写真)。「行っていい?」。「それ〔蟹〕、連れてってね」〔この中年の教師は、ジョノにすごく理解がある〕。ジョノは、教室の入口にいた姉に、「これ、キングフィッシャー〔廃船の名前〕に 入れてくる」と言って出て行く。ジュリーが心配して、「ジョノ、出来てません?」と教師に訊くと、「文句なしに進級よ。助けてくれてありがとう」と言われる。ジョノは、そのまま桟橋まで走っていくと、そこから岩崖沿いに付けられた小道を走り、打ち捨てられた廃船のところまで来る(4枚目の写真、矢印は蟹)。そして、船尾にある窪みに入ると、蟹に向かって、「せんちょう、ふねを守れ 。いいな?」と言い、床に溜まった海藻の上にそっと置く。
  
  
  
  

その夜、ジョノの父母は、深刻な会話をしている。母:「ジュリーがいなくなると、もっとひどくなるわ」。父:「何とかやっていくさ」。「ジョノにとってすごく大事な存在なのよ。あの子には、まだ話してないんでしょ?」。「そんな暇がどこにある? お前から言えよ」。「なぜ、いつも私なの?」。「俺から話すと、ロクなことにならんからだ」(1枚目の写真)。翌日、ジョノと、2人の悪ガキが、おもちゃのピストルで遊んでいる。どこに隠れたか分からない相手を狙って撃つのだが、ジョノの補聴器は背後からの音は捉えられないので、2人が後ろから忍び寄っても気付かない(2枚目の写真)。2人は、ジョノを後ろから押し倒して、草地の上に仰向けにして拘束すると、「こうさんだ!」と言うジョノから補聴器を取り上げる(3枚目の写真、矢印は補聴器とイヤホンを結ぶコード)。「かえせ!」。2人の悪ガキは、補聴器を投げ合って、ジョノには返さない。投げ合っているうちに何度も落とす。一部に真空管が使われているので、壊れた可能性は十分にある。補聴器を取り返したジョノが、器械を音のする方に向けても、何も聞こえずにがっかりしたような顔をするので、本当に壊れたのかもしれない。実に卑劣な悪ガキだ。ジョノが座っていたのは、停車した車の道路側だが、突然、バスがぎりぎりに通って行きジョノを驚かせる。それも、バスの接近音が聞こえなかったからだ。
  
  
  

バスは停車し、「ストリートンです」〔架空の地名〕と車掌が声をかける。1人の男が降りようと顔を出す。男は、イタリア語で、「Grazie(ありがとう)」と言い、車掌は「Prego(どういたしまして)」と返すので、車掌もイタリア系なのだろう。しかし、すぐに、「今は英語」と付け加える(1枚目の写真)〔早く英語を覚えろ、というアドバイス〕。「言ってみて」。「ビール1ぱい、おねがい」。「そうじゃない。『ビール1杯、お願い』だ」。「ビール1ぱい、おねがい」。「それでいい」。「ワイン1ぱいのほうがいいな?」。「ワインはダメだ。ビールだ」。「OK」。男は、荷物を持ったまま桟橋に向かう。バスのそばで2人のやりとりを見ていたジョノは、後について桟橋に向かう。男は、手すりに体を預けると、イタリア語で歌い始める。ジョノは胸を押さえながらジョノに近づいていくので、何とか聴こえないかと補聴器を操作していたのだろう(2枚目の写真)。男はジョノの気配に気づき、歌うのをやめる。そして、にっこり笑うと、「ハロー」と声をかける。ジョノも一瞬にっこりするが(3枚目の写真)、恐らく何も聞こえなかったので、そのまま立ち去る。
  
  
  

日曜のミサ。クリスマスなので、『神の御子は今宵しも』が、ラテン語で歌われている。そこに、イタリア人が入ってきて、たまたまジョノの通路をはさんで隣の席に入る。イタリア人は、ジョノに気付き、笑顔を見せ、ジョノも笑顔でそれに答える(1枚目の写真)。イタリア人は、ジョノが歌っていないことに気付く。そして、声を出して歌うように、仕草で促す(2枚目の写真)。最初、ジョノは首を横に振るが、イタリア人は歌うよう催促し、遂にジョノも歌い出す。しかし、ジョノの音程は全く崩れ、音量調節ができずに大声になったため、参加者全員が何事かと振り返り、いつもの悪ガキは笑い出すのを必死でこらえる。ジョノの実態に気付いたイタリア人は、自分の失態に後悔するが、ジョノ自身は満足そうに歌い終える(3枚目の写真)。ところが、一番観ていて腹が立ったのは、司祭が嫌な顔をして降り向いたこと〔宗教関係者が障がい者にこうした態度を見せるなど以っての外〕。それを見て、他の参会者も一斉にジョノを変な顔で見る。怒ったジョノは、賛美歌の本を床に投げつけると、通路に出て、背を向けて教会から出て行く(4枚目の写真)。ドアを思いきり強くバタンと閉めた時の音が、司祭の心に突き刺さればいいのにと思う。
  
  
  

翌日、父のパブの隅で、ジョノはクリスマス・プレゼントの釣り竿を手に 至極ご満悦(1枚目の写真)。父は、お客に迷惑をかけないよう、その場に座らせるが、それでも、釣り竿の錘が客のテーブルの上に音を立てて落ちてしまう。客は、気にせずに笑い、「もし、わしに食らいついて欲しいなら、いい餌が必要だぞ」と冗談を言う。だが、それを聞いた父は、「何をやってる」とジョノを叱る。客が、父に、「釣りのやり方は教えないのか?」と訊くと、「私が? まさか。海と私の間には協約がある。私が陸(おか)にいる限り、海は、私を溺れさせようとはしないんだ」と答える。ジョノの隣にいたジュリーは、「パパは、お風呂に入っても船酔いするんですよ」と口を挟む。そのジュリーへのプレゼントはラジオだった(2枚目の写真)。プレゼントの “格差” にがっかりしたジョノがパブを出て行こうと立ち上がると、父は竿の先端を持ち、他の客の迷惑にならないようにして、外に送り出す。
  
  

ジョノは、その後、海に行き、自分愛用の小さな帆付きボートに乗り、水に潜って金属の箱を拾い上げる。一方、桟橋でイタリア人が糸だけで魚を釣っていると、その脇で缶蹴りをしていた悪ガキが、缶を蹴るフリをして、手すりの下に置いてあったイタリア人のナイフを海に蹴り落とす(1枚目の写真、矢印はナイフ)。悪ガキ:「わぁ、ごめん」。「ぼくのナイフだぞ! なぜ、こんなことする」。ジョノは、その様子をボートの上から見ていた(2枚目の写真)。「♪アンソニーはバカ」〔アントニオの英語名/イタリア人の名はアントニオだと、後で分かるが、この時点で悪ガキは、なぜ知っていたのだろう?〕。もう1人は、「ストリートンにワグなんか要るか?」とさらに強い差別発言をする〔ワグ(wog)は、色の浅黒い外国人を指す軽蔑的な差別語〕
  
  

ジョノが、金属の箱を持って意気揚々と家に入って行くと、姉と、“黒板にメリー・クリスマスとを書いた女の子” が部屋の中で楽しそうに踊っている。ジョノ:「ジュリー、たからものだよ!」。「外で開けましょ」。ジョノは、女の子の頭の上の変わった帽子に目をとめる。「それ、なに?」。女の子は、帽子をとってジュリーに返す。ジョノの見たことがない帽子。しかも、それを受け取ったジュリーは、すぐに背後に隠してしまい、「私のよ」とだけ言う。ジョノは、何か変だと疑い始める(1枚目の写真)。「なんのため?」。「学校よ」。「ストリートンのじゃない」。「いいえ。ロレト・カレッジよ」〔アデレード郊外にある女子高校〕。「アデレードじゃないか!」。「ここの高校なんかには行けない! 知ってるでしょ!」。女の子:「私は、ここに残るから、一緒に遊べるわ」(2枚目の写真)〔姉より年下〕。しかし、姉と別れたくないジョノは帽子を取り上げる。2人で帽子を引っ張り合う。姉は、「私は、このままずっとストリートンなんかにいたくないの!」。ジョノは、帽子を2つに引き裂く。それを見ても、姉は怒鳴らない。「ごめんなさい、ジョノ。でも、行かないと」と詫びる。ジョノは、母がミシン縫いをしているところに行くと、「ママ! ジュリー、いさせて!」と叫ぶ。そこに、ジュリーも飛び込んできて、「私のアデレード行き、知られちゃった。でも、話すのは、私の役目じゃなかったでしょ? なぜ、話してくれなかったの?」と母を非難する。ジョノは「ママ! 行くなと言って!」と必死だ。「行かなくちゃいけないの。ジュリーにはジュリーの人生があるでしょ」。「どういうこと?」(3枚目の写真)。
  
  
  

母は、「もっと早く話すべきだったわ。ごめんなさい」と謝る。「でも、なぜいくの?」。「ストリートンの次は、全員がアデレードの高校に行くの。私達みんな寂しいけど、耐えないと」。「ぼくのがっこうは?」。「ストリートンよ」。「そのつぎは?!」(1枚目の写真)。「分からない」。「ぼくも行く!」。部屋を出たところで、立ち聞きしていた父とぶつかる。父は、「ジョノ…」と言いかけるが、父には何の期待もしていないジョノは、イヤホンを外し、“何を言っても聞かないぞ” と態度で示す(2枚目の写真、矢印はイヤホン)。ジョノは再び海に行き、イタリア人アントニオのナイフを潜って拾う(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

ジョノがナイフを持って海から出てくると、姉が、海賊のシンボルを描いた旗を手に持ち、「ジョノ、見て、旗よ!」と叫ぶ。ジョノは、それに対して、背を向ける。そこで、姉は旗を帆柱に立てかけると、先ほどジョノが家に持ち帰った金属の箱を掲げ、「いらっしゃいよ!」と呼ぶ。それでも、無視されるので、木の剣を持つと、「青髭め、貴様なんかに金貨を渡すものか!」と、如何にも海賊のフリをする。この3度の努力でジョノも姉を許し、海から上がってくる(1枚目の写真、背後にあるのがジョノの “小さな帆付きボート”)。ジョノとジュリーは、かつて2人でしていたように、廃船の上で海賊ごっこを始める。姉は弟のことを、海賊船の「ジョノ船長」と呼び、ジュリーは、その忠実な部下だ(2枚目の写真、ジョノがかぶっているのは “船長” の帽子)。遊びが終わると、ジュリーは、「あなたがいなくなると寂しいわ」と言い、ジョノを抱きしめる(3枚目の写真)。
  
  
  

姉が去ったあと、ジョノは、浜辺で気持ちの悪いものを捌(さば)いているアントニオに近寄っていく。そして、彼のためにわざわざ拾いに行ったナイフを渡す(1枚目の写真、矢印)。アントニオが如何に感激したかは、思わず、イタリア語で「グラッチェ」と何度も感謝したことからも分かる。彼は、さっそくナイフを使って切り始めるが、ジョノは、「それじゃ、エサにならない。みせてあげる」と言い、細かく切ろうとする。アントニオは、「それ小さすぎる。よくない」と反対する。「これ、さかなじゃない」。「Questo è son per mangiare(これは食べるものだ). Capissi(分かる)? Calamari(ケンサキイカ). Per mangaire(食べるんだ)」と、動作でジョノに分からせようとする。ジョノ:「食べる? ノーノー。だれも食べない」。アントニオは、これは食べるものだと言った後で、「Squisito(ほっぺたが落ちるほどウマい)」とゆっくり言いながら、指を口に近づけ、口を鳴らしながら、手をパッと拡げ、そのおいしさを表現する(2枚目の写真、矢印)。アントニオは、岩崖に作った仮設の小屋にジョノを連れて行き、フライパンで、輪切りにしたイカをオリーブ油で炒める。そして、最初の1個をフォークで取り上げ、ジョノに渡す。恐る恐る口にしたジョノだったが、「好きか?」と訊かれ、「いいね」と答える。「そうじゃない、Squisitoだ」。外国語が うまく発音できないジョノは、さっきアントニオがやって見せた動作で、おいしかったことを示す(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

翌日、海岸で、ジョノとアントニオは、他の漁師が捕ってきた魚を見ている。イタリアで漁師をしていたアントニオにとって、どの魚が高く売れて、その魚がダメなのか知っておくことは大事なことだからだ。彼がジョノに最初に訊いた魚は、「わるくない。いい」。2つ目は、「猫のえさ。ひどい」。ジョノが一匹の魚を取り出し、「ホワイティング(フライ用の白身魚)。サイコー」と教える。そこに、魚の持ち主がやって来て、「ハエがくるじゃないか」と布をかぶせる。「どこで捕まえた?」。「水の中」。「だけど、どこ?」。「いいか、そこは俺の穴場なんだ。誰にも教えん」と言うと、箱の上に置いていたアントニオの腕を邪険に振り払い、箱を持って行く(1枚目の写真、ジョノの腕は払っていない)。アントニオは、短期間でかなり話せるようになってきたが、最後の言葉は理解できない。そこで、ジョノに、「何て言ったんだ?」と訊く。「しんぱいいらない、トニー。ボクたちでとろう。来いよ」。ジョノは、自分のボートにアントニオを乗せ、誕生日にもらった釣り竿も貸す。そして、自分は海に潜って、魚のいる場所を教える(2枚目の写真)。そのお陰で、上等の魚が箱一杯捕れた。それを魚市場に持って行き、小さな村なので顔なじみのお兄さんに見せると、「許可証はあるのか?」と言われる。アントニオは、「ぼくたち魚捕った。あなた買う」と言うが(3枚目の写真)、「アマチュアからは買えない。ジョノも、「ぼくたちでとった。いい魚」と口添えする。「いい魚だ。だが、プロの漁師からしか買えないんだ。君の友達は、許可証を取らないとな」。しかし、気のいいお兄さんは、今回限りということで、内緒で買ってくれる。
  
  
  

ジョノは、さっそく、ホワイティングを一匹ぶら下げてパブに行き、「パパ!」と声をかける。「ジョノ、ここには来るなと言ったと思うが」。ジョノは、ホワイティングを父に見せる。プレゼントした釣り竿でジョノが釣ってきたと思った父は、ホワイティングを手に取り、「いい魚だな。さすがは、上等の釣り竿だ」と言う(1枚目の写真、矢印は魚)。ジョノを褒めたのか、竿を選んだ自分を褒めたのか? 父は、横に座っていた、さっきのケチ漁師に、「おい、レス、俺の息子が釣ってきた魚見てみろよ」と自慢するが、ジョノは、「ボクじゃない。トニーがとった」と言う。その言葉で、父は、急に魚に対する興味を失う。ジョノは、アントニオが許可証を取れるようにして欲しいと頼む。「かれ、うまく話せない」。その言葉を聞いたレスは、ジョノがその言葉を言ったので、「『彼、うまく話せない』」と、ジョノの口調を真似して笑う。そこに、アントニオが入ってきて、ますますややこしくなる。「ハロー、あなたジョノのパパ? 僕、名前トニー」と握手の手を差し出すが、無視される。「魚。ジョノ、捕るの助けてくれた」。レスは、「あんたは、ワグなんかから魚を買わないよな、フランク?」と差別発言。「ノーノー。これあげる。A regalo(贈り物).」。「要らない」。「たくさんある」。「お前さんの魚なんか要らん。ジョノ、出てけ!」(2枚目の写真、矢印は魚)。そして、魚をジョノに握らせ、「魚も お前も出てけ!」と怒鳴る。ジョノは、「かれ、パパにあげた。つんぼか?」と言って、魚を父に向かって投げる。父が魚を捨てると、ジョノは怒って出て行く。アニトニオはジョノを弁護しようとするが、父は、「あいつの尻を思い切り叩いてやる」と言って、ジョノの後を追っていく。ジョノが自分の狭い寝室に逃げ込むと、そこに父が入って来て、「こっちに来い」と命じる。ジョノは、「ぼく、悪くない!」と言い(3枚目の写真)、ベッドの上に乗って父の動きから逃げる。「パパ、きらいだ!」。「そうか? なら、こっちもお前なんか嫌いだ!」。さらに、「いいか、よく聞け、二度とパブに来るな。二度とだぞ! もう一つ、イタリア野郎に近づくな。分かったか?」。ジョノは、当然、何も言わない〔それにしても、最低の父親〕
  
  
  

アントニオは、イタリアからの小包を、店に取りに行く。小さな村なので、郵便局はなく、普通の店が郵便局の代行をしている。そこの女店主は、“ワグ” に警戒感も露わ。「小包、来てます?」。「名前は? 名前を言いなさい」。「アンドレウッチ… アントニオ・アンドレウッチ」。女店主は、小包をわざとドンと置くと、乱暴に受け取り票を取り出し、無言でペンを差し出す(1枚目の写真)。アントニオは、サインし、「ありがとう」と言って小包を台から取り上げるが、女店主は黙ったままニコリともしない。小包を抱えて去っていく後ろ姿に気付いたジョノは、“嫌いな父” の命令など無視し、アントニオの後を追う。アントニオは、仮住まいの中で小包を開けるが、中に入っていたのは、妻の写真入り額、そして、大きな巻貝。そこに、ジョノが入って来る。アントニオはジョノを隣に座らせると、巻貝の開口部を胸の補聴器に押し当て、「海が聞こえる。波が聞こえる」と言い、次に、顔に当てて、「嗅いで」と言って、海の匂いを嗅がせる(2枚目の写真、矢印は巻貝)。「ぼくの海だ、ジョノ。僕の波だ」。3番目に取り出したのは、赤ちゃんの写真入り額で、こちらはガラスが割れていた。「見て、ジョヴァンニだ」。「この子の パパなの?」。「そう、パパだ」。「なぜ、家と こどもを、のこしてきたの?」(3枚目の写真)。「仕方なかった。ぼくの国は貧しい。食べ物ない。仕事ない。生活ない。新しい家を作らないと」。「どこに?」。「ここだよ。ストリートンに」。ジョノは、好きになったこのイタリア人が、この村に住むと分かって嬉しくなる。
  
  
  

一方で、それは別れの日でもあった。一家揃ってジュリーをバス乗り場まで送る。ジョノは、姉に背中を見せたままで、振り向こうともしない。姉は、ジョノの肩に手を置き、「毎月第3週末には家に帰るわ。休暇中もずっとね」と言うが、返事はない。あと1分で発車との合図があり、ジュリーは、父、母の順に抱き合う。しかし、ジョノは背中を向けたままなので、「またね〔See you〕、ジョノ」と声をかけるしかない(1枚目の写真)。そして、バスに乗り込む。バスが動き始めると、それまで姉に冷たくしていたジョノは、「ジュリー」と言うと、走ってバスの後を追いかける。そして、腕を差し伸べては、何度も「ジュリー」と呼ぶ。その姿を見て、「大好きよ」と言うと、もう見ていられなくなった姉は、涙を浮かべて前を見る。それでも、ジョノは後を追い続ける(3枚目の写真)〔悲しくも、美しい別れのシーン〕
  
  

ジョノが、そのまま廃船まで行って泣いていると〔ネクタイをはめたままなので、バスの場面から直行したことが分かる〕、廃船を見に来たアントニオが、心配して声をかける。「ジョノ、なぜ泣いてる?」(1枚目の写真)。「ジュリー。いっちゃった」。そして、アントニオにすがりついて泣く。ジョノは、姉が作った旗をしっかり握っていた。それに気付いたアントニオは、ジョノを元気付けようと帆柱にロープに “掲揚” する。その後の場面では、かつてジョノと姉がしていたように、ジョノが船長の帽子をかぶり、アントニオとおもちゃの剣で遊んでいる。ジョノは、ジュリーを失い、代わりにアントニオを得た。アントニオは、「おい、Capitano(船長)、どこに行こう?」と訊く。ジョノは、剣で、ある方向を指し(2枚目の写真)、「ねじろ〔Home〕」と答える。「どこにある?」。「ウエッジ島」。そう言うとジョノは、大事に持っている地図を取り出して見せる(3枚目の写真)。方位マークが普通と違い、“地図の上が西” になっているので、この島はストリートンの真南にある。ジョノは「かいぞくのねじろ」と付け加える。
  
  
  

オーストラリアの学校は、1月末から新学期が始まる。ある朝、母が、のんびりしているジョノに、「もうすぐ8時半よ!」と急かしているのは、ジョノも1年進級して、新しい学年の授業がもうすぐ始まるため。始業時間は何時か分からないが、ジョノは何とか間に合って、母と一緒に新任の教師の前に来る。教師は、「あなたが、少し耳の悪い子ね。話は聞いてるわ。うまくやっていきましょうね」と、ジョノに声をかける(1枚目の写真)。ジョノが定番の、最後列の席に向かおうとすると、教師が呼び止め〔大声で叫べば、背後からの声も聞こえる〕、「私のすぐ前に座ってもらうわ」と言う。「ここ、ぼくのせきだよ」。「昨年はそうだったでしょうが、今年は、前に座って欲しいの」。ジョノは、仕方なく最前列に座る〔そうは言っても、3列しかない〕。ジョノが、自分たちの席より前に座ったので、悪ガキは、さっそく噛んでいたチューインガムを口から出すと(2枚目の写真)、ジョノに投げつける。母が、少し遅れてパブに着くと、夫から意外なことを聞かされる。それは、ジョノを聴覚障害のある子供専用の学校に入れるという話だった。母は、賛成も反対もしない。もう一度、学校に戻り、英語の授業から生物の授業に切り替わる。そして、「今学期、私達は、水槽に入れた動物の観察をします。誰か、水槽に適した動物について知っている人は?」と訊く。ジョノはすぐに立ち上がり、「ハサミせんちょう!」と大声で言う。新来教師には意味不明なので、「何て言ったの?」と訊き返す。「ハサミせんちょうだよ。そこに住んでた」。教師は、ジョノがちゃんと質問に答えているにも関わらず、「座って。邪魔しないの」と命じる(3枚目の写真、矢印は水槽)。そんな発言は聞こえないジョノは、「連れてくる。しんぱいしないで」と言うと、教室を飛び出して行く。
  
  
  

ジョノが、ハサミ船長を入れておいた廃船に行くと、アントニオが背広を着た男と話し合っている。この廃船には、持ち主がいて、アントニオは正式な売買契約で、この廃船を自分の所有物にしたのだ〔修理すれば、立派なボートになると確信して〕。ジョノは、船尾から蟹を取り出す(1枚目の写真、矢印)。ジョノが走って教室に戻ると、教師と生徒達はラジオの周りに集まって、子供放送に関する番組を聞いていた。教師は、ジョノに、「出て行きなさい。後で、お話があります」と冷たく言う。ジョノには、耳に入らない。「ハサミせんちょうって、これだよ!」。教師は蟹を見て、卒倒しそうになり(2枚目の写真)、ジョノの手を払いのけて蟹を床に投げ飛ばすと、木の棒で何度も突いて殺してしまう。そして、残骸を教室の外のドラム缶に捨てる。激怒したジョノは、机の上に置いてあったすべてのものを床に投げ捨て、水槽にモップを突っ込んで破壊する。そして、それを見て動転した教師に向かって、「ハサミせんちょうだぞ! おまえ、ハサミせんちょう殺した! マーダラー〔Murderer〕!」と、罵声を浴びせ(3枚目の写真)、教室から出て行く。
  
  
  

この “最低の新任教師” は、生徒に事情を尋ねることすらしない。だから、ジョノが、教室の中をメチャメチャに破壊したという結果だけを父親に告げる。父と母の会話。父:「お前は、あいつをベルトで叩くんだ」〔この人非人は、自分で叩くことすらしない〕。母:「あの子にとって、今は大変な時だって思わないの?」。「お前は、奴に甘過ぎる。教室中を破壊したんだぞ。無罪放免で済ます気か?」。「学校では虐められ、姉はいなくなり、90%聞こえないのよ」〔プラス、無理解の極致の教師もいる〕。「ケイト、人生とは厳しいものだ」。「あの子には、最高の機会を見つけてあげたいの」。「そうだな。だったら、都会に行った方がいい」。「ダメよ」。「ケイト、学校〔聾唖学校〕に電話した。明日、担当者を寄こすそうだ」〔独断専横〕。「よく、そんなことが。あの子の胸が張り裂けるわ」(1枚目の写真)。「誰にとっても最善の途を選んでるんだ」〔“誰” ではなく “自分一人”〕。翌朝、口うるさいレスのボロ家では、鶏小屋が荒らされ、彼は頭にくる(2枚目の写真)。一方、学校に向かう途中のジョノは、バカ教師と顔を合わせたくないので、鞄を途中の塀の陰に隠し、偶然出会ったアントニオと一緒に工具店に入る。アントニオの英語力はまだ乏しいので、船を修理するための真鍮釘をどう表現したらいいいか分からない。ジョノの助けで、長さ15センチくらいの真鍮釘を100本注文する。店員が探しにいっている間に、ジョノは、「なぜ、100本?」と訊く。「ボートを造る」。「なぜ、ぼくのディンギー〔艦載小艇〕を使わない? 帆も、ロープも、さくぐ(索具)もある」。「君のボートは上等だ。だけど、大きな魚を捕るには小さ過ぎる。許可証も取れた」。話がここまで来た時、店の前を通りかかった父がジョノに気付いて、店に入って来ると、「おい、なぜ学校にいない?」と訊く。そして、「あちこち、捜したんだぞ」と言い(3枚目の写真)、無理矢理連れて行く。
  
  
  

ジョノが帰宅すると、タウンゼント・ハウスという学校の採用担当者が待っていて、ジョナと握手する(1枚目の写真)〔タウンゼント・ハウスは、メルボルンの郊外に1970年まで実際にあった聴覚・視覚障害の児童を対象とした学校→現在は州立となり名称も変更〕〔アデレードから650キロも離れているので、一旦入学したら、故郷に帰る機会はなくなる〕。担当者は、ジョノにヘッドホンを渡し、音が聞こえたらボタンを押すようにと端末を渡す。最初は、“担当者がスイッチを入れるのを見て すぐにボタンを押した” ので如何にも聞こえているように見えたが、担当者は その失敗に気付き、ジョノの顔を横に向け、操作が見えないようにする(2枚目の写真、矢印はボタン)〔単一の周波数の音を聞かせ、どのくらいまで音量を上げれば聞こえるかをチェックする検査。周波数ごとに何度もチェックする〕。この時点では、ジョノは検査の目的を教えられていない。
  
  

恐らく数日後、ジョノが、口うるさいレスのボロ家の前を通りかかると、家の境の柱の所に鶏が10羽ほど固まっている。ジョノは、鶏小屋から逃げ出したのだと思い、親切に小屋の方に帰らせる。ところが、それを見たレスは、先日の鶏小屋荒らしの犯人はジョノだと勘違いし、服を邪険につかむろ「捕まえたぞ。一緒に来い!」と怒鳴る(1枚目の写真)。レスは、ジョノが何と反論しても聞く耳を持たず、パブまで連行する。そして、ジョノの無情な父に、「鶏泥棒を捕まえた。現行犯だぞ」と文句を言う(2枚目の写真)。ジョノは、「ボクじゃない。誓うよ!」と言い。その場に居合わせたアントニオも、「ちょっと待て。なぜジョノを信じない。その子はいい子だ」と援護するが、父は、「余計なお世話だ」と一蹴。母も、「ジョノは、そんなことしないわ」と言うが、父は、ロクデナシのレスの言葉だけを100%信用し、そのままジョノを2階に連れて行く。アントニオが、パブの客に向かって、「なんでジョノを信じない?」と訊くと、他の客が、「お前さんの言葉より、さらに意味不明だからさ、この間抜け〔mug〕」と侮辱されて終わり。ジョノの部屋からは、父がジョノのお尻をベルトで叩く音が響く(3枚目の写真)。終わると、この血も涙もない父は、何も言わずに部屋を立ち去る。残されたジョノは、悔し涙に暮れる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

その夜、タウンゼント・ハウスの担当者が家を訪れる。すべて自分一人で決める父は、妻に、「明日の朝、行かせるぞ」と言う。母は、「あの子に、機会すら与えもしない。話を聞こうともしない」と夫を非難する。担当者が、「学校までは大変な距離があります」と、早い決断を迫ると、父は、「あなたのご意見は?」と尋ねる。「正直に申しても?」。「ええ」。「彼は、活発なお子さんです。しかし、不幸にして、難聴は翌年以降さらに問題を起こすでしょう」。ジョノは、何が話し合われているか不安になり、ドアの隙間から補聴器を入れて3人の方に向ける(1枚目の写真)。担当者は、「わが校で、専門家の指導を受ければ、すべての人にとって、最良の結果となるでしょう」と勧める。ジョノは、父が自分を家から追い出す気だと確信する(2枚目の写真)。彼は、すぐ部屋に戻り、にっくき父がくれた釣り竿を真っ二つに折り(3枚目の写真、2つの矢印は竿のトップとエンド)、床に投げ捨てる。そして、必要な物を鞄に詰めて部屋を抜け出し、海に向かう。
  
  
  

ジョノが海辺に行くと、夜遅いにも関わらず、アントニオが廃船で釘を打つ音が聞こえる。ジョノを見たアントニオは、「やあ、ジョノ、どうだすごいだろ?」と言う。ところが、ジョノは、ずっと 自分の廃船だと思ってきたので、「何するんだ?」と非難する。「ボートを直してるんだ」。「ボクのボートだ!」。「僕のでもあるんだ。だから直してる。だから2人のものだ」。ところが、ジョノは、執拗に自分のものだと言い張る。アントニオは、「聞くんだ。僕はこのボートを自分のお金で買った。修理して良くする。だが、君のボートでもある。見ろ、君の旗に、君の地図だ。ちゃんとあるだろ。僕を信じろよ」(1枚目の写真)。ジョノは、「いやだ!」と言うと、ボートから離れ、アントニオに向かって石を投げつける。ジョノは、波打ち際まで行くと、補聴器を取り外し(2枚目の写真、矢印、背後に愛用のボートが見える)、投げ捨てる。そして、その先に係留してある愛用の小さな帆付きボートに荷物を入れる。
  
  

その夜、息子のことが心配になった母は、様子を見に行こうとベッドから出ようとするが、バカな父は、「あいつは、どこにも行かん。さっさと眠るんだ。朝になったら、見に行け」と引き留める(1枚目の写真)。ジョノは、明るくなると、すぐにボートに乗り込んで沖合に向かう(2枚目の写真、海の中でボートに乗るのは、結構大変)。母は、でかける用意をしてジョノの部屋に行く。当然、どこにも姿がない。母が、事態の重大性に気付いたのは、真っ二つにされた釣り竿を発見した時だった(3枚目の写真)。母は すぐに夫の元に行き、「今朝、ジョノを見た」と訊く。「いいや、台所じゃないのか?」。「誰も、見てないの」。「心配するな。どこかで遊んでるんだろ」。「こんな天気で?」。上空では、雷の音が聞こえる。その頃、ジョノは、刻々と荒くなる波の中を、島めがけて必死にオールを漕いでいた。
  
  
  

母は、学校にも見に行くが、ジョノはいない。そこで、ハッと思いつき、アントニオの所にいるのではと期待し、廃船まで探しに行く(1枚目の写真)。「ジョノ!」と呼ぶが、返事はない。カメラは、雲の様子を映すが、海の上には真っ黒な雲がかかっている。ジョノは、目指す島に近づくが、波はますます荒くなる。母は、浜辺にいた漁師に、「ジャック、ジョノを見なかった?」と尋ねる。「いんや、こんな朝だ。いるハズないだろうが。こんな風じゃ、吹き飛ばされちまう」(2枚目の写真)。そのうち、雨が降り出す。ジョノのボートは激しく揺れ、ボートの船体を両手で持ち、投げ出されないようにするのが精いっぱいで、とても先には進めない。このままでは転覆すると思ったジョノは、水中マスクとシュノーケルをつけると、鞄を持って海に飛び込む(3枚目の写真)。
  
  
  

パブに戻った母は、「こんなこと初めてよ。朝食を食べない。昼食も食べない。どこにもいない」。事態の重大性にようやく気付いた父は、「救援を頼もう」と、警察に電話をかける。村では、少し天気が回復し、波打ち際で遊んでいた悪ガキが、ジョノが捨てていった補聴器を見つける。そこに、やってきたアントニオは、悪ガキから補聴器を奪い取ると、「ジョノはどこだ?」と詰問する(1枚目の写真、矢印)。2人がジョノに悪さをしたと思ったのだ。「ここに落ちてた」。一方、ジョノは、島の海岸に泳ぎ着いていた(2枚目の写真、ちゃんと鞄も持っている)。
  
  

水中マスクとシュノーケルを外したジョノは、振り返って海を見ると、飛び上がって喜ぶ。「やった! やった!」(1枚目の写真)。天候は回復し、風も収まっていたので、ジョノは焚火を作ろうとする。波打ち際の岩場で拾ってきた木材に火を点けるため、鞄に入れて持ってきた分厚い本を数ページ破いて、マッチで火を点ける。そこに、破いたページをさらに投げ込み、火を大きくしていく(2枚目の写真)。木に火が燃え移ると、拾ってきた貝を焼いて食べる。そして、くたびれたので、焚火のそばで毛布をかけて眠る(3枚目の写真)。
  
  
  

夜になり、パブでは、海軍の下士官1人を中心に、父と村の漁師達が集まっている。下士官は、緊急性は分かるが、探照灯などの設備がないので、夜の海上捜索はできないと言い、5時34分の日の出に合わせて捜索を開始するため、5時に桟橋に集まるよう指示する(1枚目の写真)。アントニオは、真っ暗でも海に捜しに行く、船は借りると主張するが、意気込みだけで実効性がないので拒否される。また、下士官は、壁に張った地図を指し、風向きから、明日の捜索は村の北側の海域で行うよう指示する。ここでも、アントニオは、「なぜ、北側だけ?」と疑問をぶつける。「風に逆らって漕ぐことなどできないからだ」。捜索方針に納得がいかないアニトニオがパブを出て行くと、父が後を追って行って呼び止める。「トニー、あんたには、彼がどこに行ったか見当がついてるんじゃないか?」。アントニオは、今までジョノの父から受けてきた仕打ちから、「ない」と、すげなく振り切る。父は、「待ってくれ。あんたは、俺より彼に詳しいみたいだ」とすがるように言う。アントニオは、「昨夜、ジョノを見た。ボートに来た。だけど、変だった。怒ってた。そして、走って行った。後を追うべきだったが、忙しかったから」と打ち明ける。父は、「俺は、これまでずっと、忙しくてジョノのことなど構ってこなかった」と、自らの姿勢を反省する(2枚目の写真)。ボートに戻ったアントニオは、修理を続けようと準備をしていて、ジョノが残していった地図に気付く(3枚目の写真)。ジョノはこの島に行ったに違いない! アントニオは、どこに捜しに行けばいいか分かり、嬉しそうにほほ笑む。そして、何が何でも自分とジョノのボートで助けに行こうと、徹夜でボートの補修を終わらせる。集合時間の5時が近づき、アントニオは、ジョノの海賊旗を掲げた船を、修理用の架台から、木製の簡単な滑路をロープで引っ張り、進水させる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

朝の5時。集まった捜索用の小型漁船に向かって、下士官が、それぞれの担当区域を指示する。そこに、進水したばかりの船でアントニオが参加する。下士官は東に向かうよう指示が、アントニオは、「ノー、ノー。僕は南に行く」と答える。「東だ、バカ野郎」。「ジョノと僕は友だちだ。心配するな。見つける」。下士官は、「何のつもりだ? 明日の今頃は、失踪者は2人になってる」と、ジョノの父の前で困惑を隠せない。アントニオは、島に向かってボートを進める。一方、パブでは、ジョノの失踪が分かってから、ダメ教師が反省し、ずっと手伝いに来ている。ジョノの母は、カウンターにうつ伏せになっている。疲れて仮眠しているのか、泣いているのかは分からない。そこに夫が戻って来て、「手がかりは、まだない。ほとんどのボートは戻った。ミックとトニーを待つしかない」と報告する。「ジョノは、見つかるって言ってちょうだい」。「見つかるとも」。そう言った後で、父は母の前で初めて懺悔する。「俺は、良かれと思って… だが、息子はもう11になるのに、俺は、彼のことをほとんど知らない」(1枚目の写真)「ちゃんと 話そうともしなかった。俺のことを、嫌な奴〔mongrel〕だと思ったろうな」。この先の展開には、少し飛躍がある。ジョノの父は、いつもの服のまま、桟橋に行き、捜索から戻ってきたボートの一隻を、係留用のロープを引っ張ってたぐり寄せている。そこに、母が飛んで来て、「フランク、どこに行くの?」と訊く。「彼を見つけに行く」。「でも、操船なんて出来ないじゃないの!」。「やらないと。みんな疲れ果てている。ジョノのために、行かないと」。そう言うと、妻の反対を押し切り、ボートに乗って捜しに行く(2枚目の写真)〔少し前まで、「見つかるとも」と他人任せだったのに、①泳げない、②操船できない、のに なぜ急に自分で行く気になったのか? 唐突で不自然だ〕
  
  

ジョノは、貝だけではお腹が空いたので、たまたま視野に入った蟹に目がいってしまう。ハサミ船長を叩き潰した新任の教師を「マーダラー!」と罵ったのに、自分から蟹を熱湯に火に入れて茹でるなど以っての外なので、ジョノは悩む。しかし、空腹の方が勝ち、ジョノは目をつむって蟹を熱湯に入れる。しばらくして、ジョノは赤く茹で上がった蟹を缶から出し、申し訳なさそうに見る(1枚目の写真)。そして、蟹を岩に叩きつけ、甲羅を2つに割る。その頃、父は船酔いに苦しんでいた。ジョノは、蟹の身を口に入れるが、罪悪感が勝り、吐き出してしまう。そして、そのまま体を丸めてうずくまる(2枚目の写真)。その後、ジョノが、①結局 食べることにしたのか、②一切、食べなかったのかは分からない。ジョノは、蟹の死骸を 海岸の石の間に置き(3枚目の写真、矢印は蟹)、上から海藻をかけて弔う。
  
  
  

父が乗ったボートは、エンジンの不調か、燃料の欠乏で停まってしまう。父は、ボートには全くの素人なので、何もできない(1枚目の写真)。さらに、前進しないボートは、波で揺れるので、吐き気も止まらない。一方、島に近づいたアントニオは、海面に浮かぶ赤い帆を見つける。これで、ジョノの乗ったボートが転覆したことが分かり、“ジョノはボートで無事島に着いた” という仮定が消えてしまい、アントニオは心配になる。ジョノの部屋では、母が、やるせない気持ちで窓から海を見ていると、そこに教師が来て、「私に何かできることはありますか?」と訊く(2枚目の写真)。母は首を横に振る。教師は、「私、申し訳ない気持ちで一杯で… ジョノの話を聞こうともしませんでした」と謝る。母は、「ジョノは、私にとって、いつも “お気に入り” だった。ジュリーは、フランク〔夫〕にとって、いつも “愛しい娘” だった。私もジュリーは愛していたわ」。そこまで言うと、母の顔が急に曇り、「でも、ジョノは私を必要としていたの」と、思わず泣いてしまう。
  
  

天候は急変し、アントニオが島に着いた時には、雨が激しく降り出す。そんな中で、アントニオは海岸にいるジョノを見つけ、「ジョノ! Capitano(船長)!」と嬉しそうに叫ぶ(1枚目の写真)。ジョノは、アントニオが駆け寄るのを見て、背を向ける。アントニオは、「Madonna santa(驚いたな)!」と言って、ジョノを抱きしめる。そして、思わず「Grazie signore(神様、ありがとう)!」と漏らす。アントニオは、ジョノの顔を真っ直ぐ見ると、「来い。帰るぞ。バカな子だ」と咎めるように言う。「いやだ! ジョノ、ここにいる!」と言い、正反対の方に歩き出す。アントニオが、「ジョノ、君のママ、君のパパ、それにみんなも…」と説得を始めると(2枚目の写真)、ジョノは、「ボクがきらいなんだ! ほうりだす気だ!」と遮る。「誰も嫌ってない。バカだな。来いよ」。アントニオは、ジョノを捕まえると、「もう十分だ!」と怒鳴る(3枚目の写真)。そして、腕をつかんで無理矢理に引っ張って行く。「二度と逃げるな。バカはやめろ、来い!」。ジョノが強く抵抗すると、「君は、他の人のことを考えない! 考えるのは、自分のことだけだ。“かわいそうな、つんぼのジョノ” ってな!」。ジョノをボートに乗せた後、アントニオは、「君は、辛い人生だと思ってるんだろ? 辛いのは君だけか? ぼくの方が楽だと思ってないか? みんな、ぼくを嫌ってる。うまく話すこともできない。仕事もない。家もない。家族もいない! だけど、ぼくは逃げ出したりしない。一つでもいいから、何かしたいからだ。分かるか? それこそ、君がすべきことなんだ、ジョノ。一つでもいいから、何かしろ。意味のあることを」と訴えかける(4枚目の写真)。
  
  
  
  

桟橋まで連れて来られたジョノは、母に抱擁される(1枚目の写真)。しかし、すぐ前の桟橋では、数分前に海中から引っ張り上げられた父が、うつ伏せのまま意識不明で横たわり、女性(教師?)が、背を押したり、両肩を上げたりしている(2枚目の写真)〔現在、水難事故の場合は、仰向けに寝かせ、胸骨圧迫で心臓に血液を送ろうとするのが常識だが、半世紀前は違っていたのだろうか?〕。それを見たジョノは、父が、自分を助けようとしたことを悟り、「パパ!」と声をかける(3枚目の写真)。「おねがい、起きて!」。
  
  
  

それから日が経ち、ジョノは、自分が折った釣り竿にロープを巻いて真っ直ぐにしようとしている。こんなことでは治らないが、父との関係を修復しようとする現れであろう。ジョノが居間に入って行くと、父は、イスで寝ている。ジョノが、手で顔に触れると、父は目を覚まし、「お早う、ジョノ」と言う。「よくなってる?」。「ああ、徐々にな。お前はどうだ? ちゃんと食べてるか?」。ジョノは頷く。そして、「ごめんね、パパ」と謝る。「ボク、バカだった」(1枚目の写真)。「ああ、バカだったな」。「でも、ボク、悪くない。ニワトリ盗んでない。がっこうサボらない。ボクを追い出さないで、パパ、おねがい」。父は、ジョノの顔をじっと見る。「パパは、お前を怖がらせてしまったな。お互い、これからは頑張らないと」(2枚目の写真)「パパは、お前に厳し過ぎた… だろ? それはな… パパが、お前のことを理解しなかったからだ。もっと理解できるよう、助けて欲しい。できるか?」。ジョノは嬉しそうに何度も頷く。2人は、初めて抱き合う。「家にいていい?」。「いいとも。誰かに、泳ぎ方を教えてもらわないとな」。
  
  

ジョノは、母に連れられて学校に来る。教師は、「よく戻ったわね、ジョノ」と、手話を交えて話しかける。ジュリーの友達だった女の子が最初に拍手を始め、それに続いて、悪ガキを含めた全員が拍手でジョノを迎える(1枚目の写真)。ジョノの顔に快心の笑顔が浮かぶ(2枚目の写真)。
  
  

それから、しばらく時が流れ、元気になった父が、早朝、桟橋にやって来て、ジョノとアントニオの船出を見送る。「いいか、大きな奴しか要らないぞ!」。「OK」(1枚目の写真、父の両手が魚の大きさを示している)。ジョノは、アントニオに、「行こう」と声をかける。アニトニオは、「Sì, sì, capitano(はい、はい、船長)」と言いながら、ジョノとふざける。父は嬉しそうに見送り、2人を乗せたボートは、朝日が昇り始めた海に向かって行く〔ジョノは、漁師になるのだろうか?〕
  
  

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